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明天
明日

魯迅
井上紅梅訳

「声がしない。――小さいのがどうかしたんだな」

赤鼻の老拱(ろうきょう)は老酒(ラオチュ)の碗を手に取って、そういいながら顔を隣の方に向けて唇を尖らせた。

藍皮阿五(らんひあご)は酒碗を下に置き、平手で老拱の脊骨をいやというほどドヤシつけ、何か意味ありげのことをがやがや喋舌(しゃべ)って

「手前は、手前は、……また何か想い出してやがる……」

片田舎の魯鎮(ろちん)はまだなかなか昔風で、どこでも大概七時前に門を閉めて寝るのだが、夜の夜中に睡(ねむ)らぬ家が二軒あった。一つは咸亨(かんこう)酒店で、四五人の飲友達が櫃台(スタンド)を囲んで飲みつづけ、一杯機嫌の大はしゃぎ。も一つはその隣の單四嫂子(たんしそうし)で、彼女は前の年から後家になり、誰にも手頼(たよ)らず自分の手一つで綿糸を紡ぎ出し、自活しながら三つになる子を養っている。だから遅くまで起きてるわけだ。

この四五日糸を紡ぐ音がぱったり途絶えたが、やはり夜更になっても睡らぬのはこの二軒だけだ。だから單四嫂子の家に声がすれば、老拱等のみが聴きつけ、声がしなくとも老拱等のみが聴きつけるのだ。

老拱は叩かれたのが無上(むしょう)に嬉しいと見え、酒を一口がぶりと飲んで小唄を細々と唱いはじめた。

一方單四嫂子は寶兒(ほうじ)を抱えて寝台の端に坐していた。地上には糸車が静かに立っていた。暗く沈んだ灯火の下に寶兒の顔を照してみると、桃のような色の中に一点の青味を見た。「おみ籤(くじ)を引いてみた。願掛もしてみた。薬も飲ませてみた」と彼女は思いまわした。 cPBCdED+i4feJmwtHC45jrsE/ZGPndh+aO6ojeDVuHk77jRE+UHeYMjuq9WC+Zlh

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