バイクは、ネオンがきらめくサンフランソウキョウの 町 を 走 りぬけていく。
もう、だれも 追 いかけてこない。タダシは、ヒロのヘルメットをピシャリとたたいた。
‘まったく、十三 歳 で 高 校 を 卒 業 したっていうのに、 何 をやってるんだ!いつまでロボット・ファイトなんかやってるつもりだ! 禁 止 されたかけごとだぞ!’
兄 のタダシは、サンフランソウキョウ 工 科 大 学 の 優 秀 な 学 生 で、 弟 の 将 来 を 心 配 している。
ヒロは、 大 学 の 勉 強 にまったくきょうみがない。 高 校 は 飛 び 級 で 卒 業 したのに、 毎 日 、ロボット・ファイトで 金 をかせでいた。
‘ 兄 さんみたいに、 大 学 へ 行 く 意 味 はあるのかな?ぼく、わからないんだよ。’
タダシは、あきれ 顔 だったが、 今 はそれどころではない。
‘おっと、 続 きはあと。こりゃ、まずい!しっかり、うしろに 乗 ってろよ。’
タダシは、バイクのスピードをあげ、ビルの 間 をすりぬけていった。ヤマたちの 車 は、しつこくふたりの 乗 るバイクを 追 いかけてきたが、とちゅうであきらめたようだ。
‘うまいこと、まいたかな?’
タダシが 安 心 したのもつかのま、 今 度 は 赤 いランプをつけたパトカーが、サイレンを 鳴 らして 追 いかけてきた。
スピード 違 反 か、ギャンブルの 取 り 締 まりかもしれない。タダシは、バイクのスピードをさらにあげて 逃 げようとしたが、 行 く 手 の 路 地 をパトカーにふさがれてしまった。
‘まずいっ!しまった!’
あえなくふたりは、 警 官 につかまった。
‘ヒロ、おまえのせいだぞ。’
タダシは、 檻 の 外 から 見 つめるヒロに 文 句 をいった。 未 成 年 のヒロは、 警 察 の 牢 屋 にいれられず、 兄 のタダシだけが、スピード 違 反 者 専 用 の 留 置 場 にいれられてしまったのだ。
‘ごめんね。たぶん、キャスおばさんが、 迎 えに 来 てくれるよ。’
ヒロは、ばつが 悪 そうにタダシにいった。
タダシとヒロは、ふたりきりの 兄 弟 で、 両 親 は 小 さいころに 亡 くなり、 親 戚 のキャスおばさんに 育 てられた。
キャスおばさんは、 警 察 からの 連 絡 を 受 けて、あわてて 車 を 飛 ばしてやってきたらしい。 警 官 は、タダシを 留 置 場 から 出 してくれた。
‘さあ、きみ、 外 で、おばさんが 待 っている。もう、スピード 違 反 なんか、するんじゃないぞ。 今 回 は 反 省 文 を 書 いたから 許 してやろう。’
タダシとヒロが 警 察 署 からでてくると、 待 っていたキャスおばさんは、ふたりにだきついた。
‘まったくもう!ふたりして 何 をやっているの!けがはない?だいじょうぶなのね?’
‘おばさん、だいじょうぶだよ。’
ヒロが、めんどうそうに 答 えると、キャスおばさんは、 怒 りだした。
‘まったく、ふたりとも、 何 を 考 えているんだか!おかげで、 店 を 早 じまいしなきゃいけなかったのよ。’
おばさんは、ふたりの 耳 をきゅっとねじって、ふくれっ 面 をした。
三 人 は、 側 道 にとめてあった 小 型 トラックに 乗 りこみ、おばさんの 運 転 で、 家 に 向 かった。おばさんは、こんなさわぎになったのは、 自 分 の 子 育 てがいけなかったのだろうかと 自 問 自 答 していた。
‘この十 年 、わたしは、ふたりの 両 親 が 亡 くなったあと、ずっと 育 児 をがんばってきたわ。 育 児 の 経 験 なんてないのに、いきなり 育 てることになっちゃった。ええ、 結 婚 する 前 に、 子 どもを 育 てるなんて、むぼうだったかもよ。それに、かんぺきとはいえなかった。だって……まるで、わたしっていう 子 どもが、 子 どものめんどうを 見 るようなものだった。ああ、もう、ほんとに、 手 のかかる 子 たちだわ……。あっ、 家 についたわ。さあ、ふたりとも、おりてちょうだい。 夕 食 の 準 備 しなきゃ!’
おばさんがひとりで 話 しているうちに、 小 型 トラックは、 家 に 到 着 した。
みんなで 暮 らしている 家 は、一 階 が『ラッキー・キャット』というカフェになっている。おばさんが 経 営 していて、 地 元 の 人 たちに 愛 されている 店 だ。
もどるとすぐに、 店 のカウンターから、 大 きなチョコレートドーナツを 取 って、 口 にいれた。
‘あー、おいしい!ストレス 解 消 には、 食 べるにかぎるわね。それにしても、やっぱり、うちのはおいしいわ。’
ニャー。 飼 っているデブ 猫 のモチが、のらりくらりと、どこかからでてきた。
‘おばさん、ごめんなさい。’
タダシは、おばさんにあやまった。
‘キャスおばさん、おばさんのこと、 大 好 きなんだ。 今日 はごめんなさい。’
ヒロも、あやまる。
おばさんは、しかたないという 顔 をすると、 猫 をだきあげ、二 階 にあがっていった。ふたりも 後 に 続 き、三 階 にあがった。三 階 にはヒロとタダシの 部 屋 がある。
‘ヒロ、もういいかげんに、 気 がついてくれよ。’
タダシは、 少 しきびしくいった。
‘せっかく 高 校 をでたのに、ぶらぶらしてばかりでさ。こんな 生 活 をずっと 続 けるつもりなのか? 反 省 しろよ。’
タダシは、ヒロの 才 能 をよく 知 っている。 目 的 もなく 暮 らしているヒロのことが、 残 念 でならないのだ。
タダシが 真 剣 にいっているのに、ヒロは 自 分 のロボットを 調 整 するのに 夢 中 で、すぐにまた、でかけようとしている。
‘おい、 待 てよ。どこへ 行 くんだ?’
タダシが 聞 くと、ヒロが 答 えた。
‘ 町 はずれの、べつのロボット・ファイトに、エントリーしてあるんだ。 今 から 行 けば、まにあうから。’
タダシは、あきれた。
‘こりないやつだなあ。 父 さんと 母 さんが 生 きていたら、なんていうかな。’
‘ 兄 さん、ぼくにはわからないよ。だって、ふたりとも三つの 時 に 死 んじゃったんだから。’
ヒロはそういうと、 外 にでようとした。
‘おい、ぎりぎりの 時 間 なら、おれが 送 ってやるよ。’
タダシはヘルメットを 取 った。
‘ほんと?’
ヒロはびっくりした。
‘ああ、おまえがでかけるのを、とめたってむだだろう?だけど、ひとりでは 行 かせたくないからな。’
タダシは、ヒロをバイクのうしろに 乗 せて 出 発 した。
だが、しばらくすると、バイクはロボット・ファイトの 場 所 とは、ちがう 方 向 を 目 指 しはじめた。