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一 文と構文論

(一)文とは

我々は言語を用いて意志を伝達するわけであるが、言語の単位は、形態素(意味を持った最小の音形)→語→連語(二つ以上の単語が一つづきになって複合した観念を表わすもの。「節」を含む)→文→文章(談話)のようにより小さい単位からより大きい単位に分けられる。文は言語表現の最も基本的な単位である。

(二)語とは

1.文を構成する単位の中で最も基本的なものは語(単語ともいう)である。

2.語は文を作るための最も重要な材料であり、文を組み立てる上で一定の働きをする。この職能の違いによって語を種類区分したものが「品詞」である。例えば、「太郎が重い荷物を軽々と運んだ」という文と「次郎は仕事で忙しい」という文では、補足語や主題の中心になる役割を担う「荷物」や「仕事」のような語を「名詞」と呼び、単独で述語の働きをする「運ぶ」のような語を「動詞」と呼び、単独で述語になるという役割、および、名詞を修飾するという役割を担う「重い」や「忙しい」のような語を「形容詞」と呼び、述語を修飾する働きをする「軽々と」のような語を「副詞」と呼ぶ。

3.日本語文法で、品詞としては普通「名詞」「代名詞」「動詞」「形容詞」「形容動詞」「連体詞」「副詞」「接続詞」「感動詞」「助動詞」「助詞」の11種類が区別される。

文の数(文として可能なものの数)が無限であるのに対して、その材料である語の数は有限である。我々は、有限の単語を用いて、限りない数の文を作ることができる。

4.語の構造

語には、一つの要素だけからなるものと、複数の要素からなるものがある。複数の要素からなるものについては、一つの語の中でどのような要素がどのような関係で結合しているか、ということが問題となる。このような、語の構造の面から見て特に問題になるのは、「活用語」「派生語」「複合語」の三つである。

5.活用語

「活用語」とは、文中での働きの違いに応じて形を変える語、すなわち、語形変化する語をいう。活用語には用言(動詞·形容詞·形容動詞の総称)と助動詞が含まれる。例えば、

「食べる」 食べろ  食べよう 食べた 食べれば

「早い」 早く 早かった 早ければ

「愉快だ」 愉快だった 愉快な 愉快なら

のような種々の形で用いられる。

6.派生語

ある語に付加的要素が付いてできる語を派生語という。この付加的要素を「接辞」という。また、接辞の付加を受ける、派生語の中心要素を「派生語幹」という。語幹の前に付くものを「接頭辞」、後ろに付くものを「接尾辞」という。接頭辞は一般に、派生語の品詞のあり方に影響しないが、一部の接尾辞はもとの語の品詞を変化させる。例えば、

接頭辞が付加するもの

お名前、ご心配、み仏、ま夏、す(素)顔、おお(大)雨、こ(小)鳥、む(無)関心、ふ(不)満足

ぶち壊す、とり壊す、ひき受ける、たち遅れる、とり決める

ま新しい、ひ弱い、か細い、こうるさい、けだるい、たやすい、て(手)痛い

接尾辞が付加するもの

田中さん、渡部君、吉野氏、ぼくら、私ども、彼等、一日目、四人分、三冊、2メートル、5倍、一位

暑さ、深み、憎げ、話し手、持ち主、利き目、強気、やりかた、見かけ、ありよう、春めく、汗ばむ、涙ぐむ、こわがる、古くさい、照れくさい、安っぽい、現実的

7.複合語

「複合語」とは、複数の語が結合して一語となったものをいう。複合には、並列的な性格のもの(例えば、「上がり下がり」)と、そうでないもの(例えば、「上がり口」)とがある。後者の複合語においては、一般に、後続する要素(「後項」と呼ぶ)が中心になり、先行する要素(「前項」と呼ぶ)がそれに従属する。複合語の品詞については、並列的な性格の複合語は原則として名詞である。一方、後項が中心要素になる複合語には主として、名詞(例えば「うれし涙」)、動詞(例えば「腰掛ける」)、形容詞(例えば、「粘り強い」)がある。後項が中心要素になる複合語においては、後項が複合語全体の品詞を決定することになる。以下の複合語もこの類である。

春風 雨雲 長生き 薄着 筆入 受け取り 心得る 心細い

(三)文の特徴

文の特徴としては、それは形態的独立体、構造的統一体、意味的完結体であるということで、分かりやすくいえば、あるまとまった内容と構造を持ち、形の上で、前後に音の切目があって、意味が完結した(表記においては句点が与えられる)言語の単位である。意味の完結性は文の重要な特徴である。

(四)文章や談話

文章や談話は、複数の文の有機的な組合せによって構成される。例えば、

○日本には、たくさんの宗教があります。第二次世界大戦前までは、一つの宗教だけを熱心に信じている人は別ですが、多くの家には神だなと仏壇がありました。一つの家で神道の行事も、仏教の行事もおこなわれていたのです。

これは、三つの文からなる談話である。

また

○A:今度の休みに家へ帰りますか。

B:いや、どこかへ旅行するつもりです。

AとBの対話も一つのまとまった談話である。

(五)単文と複文

1.単一の述語を中心に構成された文を単文という。例えば、「太郎が重い荷物を軽々と運んだ。」「次郎は仕事で忙しい。」のような文は、いずれも述語を一つしか含まない単文である。

2.これに対して、複数の述語からなる文を「複文」という。例えば、「太郎が重い荷物を軽々と運んだので、花子は驚いた。」という文は、「運んだ」「驚いた」という二つの述語を含む複文である。

複文を構成するところの、述語を中心とした各まとまりを、「節」と呼ぶ。先の例文では、「太郎が重い荷物を軽々と運んだので」と「花子は驚いた」が「節」である。複文は二つ以上の単文が「節」となって、なんらかの形でその一成分としての働きをする、拡大された複雑な文と考えてよいのである。

①複文は複数の節で構成されるが、それらの中で、原則として、文末の述語を中心とした節が文全体をまとめる働きをする。この節を「主節」と呼ぶ。主節以外の節は、主節に対して特定の関係で結びつく。これらの節を一括して「接続節」と呼ぶ。先の例文について言えば、「花子は驚いた」と「太郎が重い荷物を軽々と運んだので」が、それぞれ主節と接続節に当たる。

接続節は、主節に対する関係の違いによって、「従属節」と「並列節」に分けられる。

②「従属節」とは、主節に対して従属的な関係で結びつくものをいう。例えば、

○君が行くなら、ぼくは行かない。

○春になると、花が咲く。

「君が行くなら」と「春になると」という接続節はそれぞれ主節「ぼくは行かない」と「花が咲く」に対して従属関係にあり、「従属節」の例となる。

③「並列節」とは、主節に対して対等に並ぶ関係で結びつくものをいう。

名詞の場合であれば、例えば、「今日と明日」「教科書と辞書」のような「今日」の「明日」に、「教科書」の「辞書」に対する関係である。

○山は高く、水は深い。

○花も美しいし、香もよい。

この二つの文では、接続節である「山は高く」「花も美しいし」と、主節「水は深い」「香もよい」は、並列的な関係にある。したがって、この二つの文は並列節と主節からなる複文である、と見ることができる。

(六)構文論

語を扱う文法を形態論といい、文を扱う文法を構文論という。構文論(統語論·統辞論、シンタクス、ともいう)は文を構成する要素の配列様式と、その機能の解明を主な目的とする分野である。伝統的な定義に従えば、語と語の結合の仕方を研究対象とする分野である。

(七)文表現の階層

文表現には二つの階層レベルがある。すなわち命題のレベルとムードのレベルのことである。

命題レベルは表現主体からは一応独立した客観的な対象にかかわるレベルで、ムードのレベルは表現主体に直接かかわるレベルである。

命題のレベルはさらにその内部において総称的に表す「名付けのレベル」(これをaとする)とそれを具体的な個別的な事態として表す「現象のレベル」(これをbとする)とに分けることができる。例えば「雨が降る」という文は「降雨」ということを総称的に表すだけで、どこで、いつ、雨が降ったか、降っているかなどについては述べられていない。bのレベルになって始めてそれが個別的な現象として捉えられ、「(これから)雨が降る」「(今)雨が降っている」「(もう)雨が降った」という形の表現になるわけである。

命題のレベルを土台にして、ムードが機能する。ムードも「判断のレベル」(これをcとする)と表出のレベル(これをdとする)の二つに分けることができる。cの判断のレベルで言語主体がある現象について、その真偽、価値づけなどを定める。やはり「降雨」を例にすれば、この判断のレベルで、確かに「雨が降る(降った)」か、あるいは「降る(降った)かもしれない」かを決める。

a→bの段階で現実化された命題事象に主体的な判断(c)、さらに話しの場に即した、聞き手向けの伝達とか、命令、依頼、質問とかの表出(d)という、より高次元の主体的な働きが作動して文が完成されるわけである。

練習問題

1.文とはなにか。

2.語とはなにか。

3.日本語文法で、品詞としては普通どう区別されるか。

4.「活用語」「派生語」「複合語」を説明しなさい。

5.接尾辞がもとの語の品詞を変化させた派生語を三つ挙げなさい。

6.複合語には、並列的な性格のものと主従的な性格のものがあるが、二つずつ例を挙げなさい。

7.文の特徴をいってみなさい。

8.単文と複文はどう定義されるか。

9.「節」「主節」「接続節」「従属節」「並列節」を、例を挙げて説明しなさい。

10.構文論とはなにか。 lFVD1LFW0VsORf9WJthLr4zrTeRIBYTeZPe/2r0ACcI+NnS6Cifo9eltsMbFTSaE

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