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3.先行研究

日本語授受動詞構文に関する先行研究は、構文的特徴に関する研究と意味的特徴に関する研究に大別することができる。

3.1.構文的特徴に関する研究

授受動詞構文の構文的特徴に関する研究については、日本語授受動詞構文3系列の対立共存に着目した研究と、構文の名詞句の格表示に関する研究が最も多い。また、構文的特徴をヴォイス的特徴として捉える研究も少なくない。

3.1.1.授受動詞構文3系列の対立共存に着目した研究

授受動詞構文の3系列の対立共存に着目した研究として、松下(1928)、宮地(1965)、大江(1975)、久野(1978)、奥津(1979、1983、1986など)、寺村(1982)などを挙げることができる。

松下(1928)はテクレル構文を「他行自利態」、テヤル構文を「自行他利態」、テモラウ構文を「自行自利態」と称し、授受動詞構文3系列の対立共存に人称と視点の制約が関わっていることを指摘した。さらに、人称制約に関しては、「自己自利態の<自>は自己であるが、必ずしも説話者そのものばかりではない。他人のことであっても其の人の身になって言えば其の人が自己化される。」(松下,1928,p.400)と述べている。松下のこの「自己化」の概念はその後の研究で言及されている「話し手」の授受動詞構文における人称上の関与、さらに奥津(1979、1986など)、寺村(1982)で言及されている人称制約の相対性に大きな影響を与えてきている。

松下以後では、宮地(1965)の授受動詞構文の構文構造の特徴についての考察が特に注目される。宮地の考察で最も大きな成果は、一つは本動詞構文と補助動詞構文の構造上の違いを分析したことであり、そしていま一つは、日本語授受動詞構文3系列の構文的特徴に関わる<話し手関与性>の提示である。宮地は授受動詞構文を「人称構文」と称し、<話し手関与性>によって、構文上に人称制約が生じ、授受動詞構文の3系列体系が成立すると指摘した。このように、宮地(1965)の<話し手関与性>に関する指摘は授受表現の構文的分析の進展に大きく貢献するものであったが、授受動詞構文の3系列体系という構文的特徴にのみ目を向ける傾向の強い中にあって、本動詞構文と補助動詞構文の構造上の相違について言及したことは極めて意義のあるものであり、注目すべきことである。

松下(1928)、宮地(1965)の分析を踏まえて、大江(1975)、久野(1978)は主に授受動詞構文の3系列体系の構文的特徴を視点制約の角度から分析をしている。特に久野(1978、2002)は、<共感度>(Empathy:E)、<発話当事者の視点ハイアラーキー>、<視点の一貫性>の三原則を設定し、授受動詞構文3系列の使い分けと文構成の文法的適切性について、視点制約の角度から分析している。

さらに、奥津(1979、1986など)、寺村(1982)は、松下(1928)の「自己化」というタームは用いていないが、授受動詞構文の構文上の特徴と人称制約の関係について「話し手の視点」から考察を進めている。奥津(1979)も人間関係のウチ·ソトの概念を意味要素として導入しながら、授受動詞構文の人称制約の相対性を記述している。

一方、寺村は、話し手視点の相対性を視野に入れながら、話し手視点がもたらす授受事象の方向性について興味深い指摘をしている。寺村は、モラウはやや異質性を有するとしながら、クレル·ヤルを方向性の強い動詞とし、クル·イクとの関連性についても論及している。

これらの研究を通して明らかにされたことは、日本語授受動詞構文3系列の対立共存を決める主要な要因は、松下(1928)の「自己化」、宮地(1965)の<話し手関与性>、大江(1975)、久野(1978)の「視点」、そして奥津(1979、1986など)、寺村(1982)の「話し手の視点の関与」であると言うことができる。要するに、日本語授受動詞構文の文構成上において、まず<話し手関与性>がなければ人称制約もなく、人称制約がなければ人称制約によって反映される3系列体系の構文的特徴も現れてこないと見ることができよう。

一方、上述したこれらの指摘はいずれも日本語授受動詞構文の3系列並存の構文的特徴に着目したものであるが、宮地(1965)は、3系列並存の構文的特徴に着目しただけでなく、各系列内部の本動詞構文と補助動詞構文の構文的関連性にも着目している。もし授受動詞構文系列間の関連性を「外的」関連性として見るならば、各系列内部における本動詞構文と補助動詞構文の関連性を「内的」関連性として見ることができる。要するに、宮地(1965)は、授受動詞構文の体系について、構文の「外的関連性」と「内的関連性」の両面から複合的、且つ有機的に捉えており、授受動詞構文の構文的特徴を考察、分析していく上で、極めて示唆的であり、先駆的考察であったと言うことができよう。

3.1.2.構文の名詞句の格表示に関する研究

構文の名詞句の格表示に関わる研究の中で最も注目されるのは、テクレル構文とテヤル構文の受益者格表示の問題とテモラウ構文の動作主の格表示の問題である。

テクレル·テヤル構文の受益者格表示についての研究は、ニ格の顕現問題に集中している。その中でも、柴谷(1978)、Shibatani(1979)、大曾(1983)、三宅(1996a)、山田(2004)の論考は参考に値する。これらの研究はいずれもニ格の生起に着目し、特に作成動詞の授受動詞構文に生起するニ格を対象として考察している。三宅(1996a)はニ格生起の原因について、語彙概念構造理論を駆使して説明している。三宅は、作成動詞によってモノが作られ、そのモノが構造上·意味上補助動詞の語彙概念構造上の対格名詞と同定できることを手がかりに、ニ格生起の許容性を解釈している。

一方、テモラウ構文の動作主の格表示についての研究は、ニ格表示とカラ格表示の問題に集中している。その代表的な論考として、砂川(1984)、山田(2004)を挙げることができる。砂川は受身文の動作主の格表示を中心に、動詞との関連性から考察している。一方、山田は、砂川を参考に、同じ動詞との関連性からテモラウ構文の動作主の格表示について考察し、テモラウ構文に現れるカラ格動作主を分析している。

3.1.3.ヴォイス的特徴とする研究

授受動詞構文の構文的特徴をヴォイス的特徴として捉える先駆的な研究として、松下(1928)の利益態を挙げることができる。宮地(1965)、Masuoka(1981)、益岡(2001)、仁田(1991)、野田(1991)、村木(1991)、庵(2001)なども授受動詞構文の構文的特徴をヴォイスとの関連性から分析している。これらの先行研究の中で、主としてテモラウ構文を取り上げて分析しているものが最も多い。

松下(1928)は、受身構文を「受動的被動」、テモラウ構文をそれと対立的に「自主的被動」と称し、テモラウ構文のヴォイス的特徴を主張している。また、宮地(1965)も、授受動詞構文と受身構文との構文上·意味上の対応性を指摘している。さらに、Masuoka(1981)、仁田(1991)ではテモラウ構文のヴォイス的性格を前提として、テモラウ構文の分類を行い、構文の意味特徴と関連させながら分析をしている。Masuoka(1981)はテモラウ構文を、「受動型テモラウ構文」と「使役型テモラウ構文」に分け、説得力のある考察をしている。

また、野田(1991)は、ヴォイスは、文法的ヴォイスと語彙的ヴォイスに分けて考えられるとし、授受動詞構文を語彙的ヴォイスの典型として捉えている。同じような考え方には、庵(2001)を挙げることができる。

以上の研究から明らかであるように、授受動詞構文のヴォイス的特徴、とりわけテモラウ構文のヴォイス的特徴が主張されているのは、受身文との構文上·意味上の対応性から捉えた結果である。このように受身文との対応、比較という視点から授受動詞構文を見てみると、授受動詞構文には顕著な語彙的ヴォイスの特徴の見られることは確かである。

テモラウ構文のヴォイス的特徴に着目した研究として、これらの研究の外に、許(2000)を挙げなければならない。許は、テモラウ構文と受身文との関連性、とりわけ所謂間接受身文との関連性に着目しながら、テモラウ構文を「依頼テモラウ文」と「非依頼テモラウ文」に二分して分析している。許の分析はテモラウ構文をヴォイスの観点から捉える研究の中でも、テモラウ構文の意味特徴だけでなく、構文的特徴も同時に視野に入れて考察しているところが注目される。

3.2.意味的特徴に関する研究

授受動詞構文の意味的特徴に関しては、授受動詞構文が表す恩恵性、ないし利益性、受益性に視点をおいた研究が大多数を占めている。その代表的な研究として、松下(1928)、鈴木(1972)、豊田(1974)、大江(1977)、上野(1978)、奥津(1979、1986など)、由井(1996a)、益岡(2001)、庵(2001)、山田(2004)を挙げることができる。授受動詞構文が表す恩恵性の有無や由緒、恩恵性のプラス·マイナスなどの問題については未だその見解に相違が見られるが、この恩恵性をめぐるさまざまな議論は依然として授受動詞構文研究の中では大きなシェアを占めている。

松下(1928)は前接動詞を「実質動詞」、補助動詞を「形式動詞」と称し、「形式動詞」は「単なる利益を表す」ものとしている。松下は全面的にプラス的利益を強調し、マイナス的利益についての言及がほとんどみられないのがその特徴である。これに対し、鈴木(1972)はマイナス利益の存在を提示し、豊田(1974)は、授受動詞構文が表す意味の多義性を考察対象としながら、授受動詞構文の恩恵性については基本的に、補助動詞から由来するものでもなく、前接動詞の語彙的意味から由来するものでもないと指摘している。豊田の研究は授受動詞構文の多義性、とりわけテヤル構文の多義性の分析は示唆に富んでいる。

大江(1977)は、発話行為理論を援用して、テクレル構文が表す皮肉について分析をしている。

また上野(1978)は宮地(1965)の分析を踏まえ、本動詞構文と補助動詞構文の構文上の違いを根拠に、授受動詞構文が表す意味を、本動詞の場合では「物の授受」、補助動詞の場合では「ことがらの授受」と捉えて考察している。上野の研究は、それまであまり言及されることのなかった本動詞構文と補助動詞構文との間の意味的関係に論及したところが特筆すべき点である。これに類似した観点から、庵(2001)は本動詞構文は「ものの授受」、補助動詞構文は「恩恵の授受」を表すとしている。

由井(1995)は授受動詞構文が表す多義的意味を考察の対象とし、その意味の相関関係を意味的「抽象化」として扱っている。由井は、異なるクラスターを設定し、意味に対応したグルーピングをして、分析を行っている。また益岡(2001)は本動詞構文と補助動詞構文の意味的関連性を意味の「拡張」として捉え、両者の意味的連続性を主張している。そして、補助動詞構文が表す恩恵性は既に本動詞構文の中で「恩恵性の萌芽」として内包されているとしている。

また、山田(2004)でも、授受動詞構文の恩恵性を構文構造との関連性から捉え、受益者の格表示が構文構造上動詞の格構造の項になっている場合を「直接ベネファクティブ構文」、受益者の格表示が構文構造上動詞の格構造の項になっていない場合を「間接ベネファクティブ構文」として分析している。

やや角度が異なるが、于(2005)は、テヤル構文の事例研究として、授受動詞構文の多義性の相関関係をLangacker(1987、1995)の意味拡張のNetwork Model理論を援用して説明している。于は認知理論を援用して、テヤル構文の多義的意味を相互に関連する意味の総合体として捉えているところがその特徴である。

以上概観してきた意味的特徴に関する研究の中で、上野(1978)、山田(2004)は単に意味的特徴のみを考察対象とするのではなく、構文が表す意味と構文的特徴を相互に関連付けて考察しているのが特徴であり、注目に値する。しかし、上野、山田の研究はいずれも補助動詞構文の表す意味については、受益性の側面から一方的に捉えているところに課題が残されている。

一方、奥津(1979、1986など)は視点を異にして、授受動詞構文の表す意味を「移動」に位置づけて考察している。所謂授受事象の本質的な意味に着目したアプローチであると言うことができる。

奥津は、授受事象の本質を「モノの移動」に位置づけるだけでなく、イク·クルのような移動を表す動詞との関連性にも着目している。奥津(1979)では、イク·クルのような動詞を「移動自動詞」、「動かす」のような動詞を「移動他動詞」と称し、「クレル·ヤル·モラウ」を「移動他動詞」として、その特殊性を主張している。また「買う·売る」、「貸す·借りる」、「預ける·預かる」、「教える·教わる」などの動詞を「広義での授受動詞」とし、「クレル·ヤル·モラウ」との区別についても論及している。奥津の研究は授受動詞構文が表す意味を「モノの移動」に着目したところがその特徴であるが、本動詞構文の意味特徴の分析に始終しており、補助動詞構文にはほとんど言及していない。

3.3.その他の観点からの研究

授受動詞構文の構文的特徴、そして意味的特徴を考察の対象とする研究の外には、①敬語との関連性から授受表現を捉える研究、②談話論的考察、③授受動詞構文に対する通時的研究、④対照言語学的観点からの研究、⑤日本語教育からアプローチした研究などを挙げることができる。

敬語との関連性から授受表現を分析した研究には松下(1928)、小松(1964 )、宮地(1965)、滝浦(2001)がある。小松は授受表現と敬語との関係を両者の本質的な差異を明確に提示しながら、授受動詞構文が表す事態の本質について、佐久間[1983(1936復刊)]を引用しながら、モノの移動と関連させて考察している。一方、宮地は、授受表現と敬語表現には密接な関連性があるとし、特に人間関係を表出する上での深い関連性について指摘している。そのほかには、滝浦も敬語との関連性から、「話し手中心性」と「聞き手中心性」との関係から授受表現を考察している。

一方、談話論的特徴や機能から捉えている研究として、前田(1990)、井出·桜木(1997)、橋本(2001)、姫野(2003)、守屋(2002、2003)、彭(2004)、山田(2004)などを挙げることができる。

対照研究の方法からアプローチした研究としては、奥津·徐(1982)の中国語との対照、林(1980)、黄(1996、2005)、井出·任(2001)の韓国語との対照、そして奥津(1983)では日·中·韓·英という広い視野での対照研究を挙げることができる。

通時的研究としては、吉田(1971)、宮地(1975)、古川(1995、1996a、1996b)、前田(2001)を挙げることができる。古川(1995、1996a、1996b)は「クレル·ヤル·モラウ」授受動詞の史的変遷について考察しているが、授受動詞の特殊用法についても説得力のある指摘をしている。

日本語教育からアプローチした研究としては、堀口(1984)、菊地(1993)、王燕(2002)、王婉瑩(2003)を挙げることができる。菊地(1993)は、日本語教育における文法とプラグマティクスのそれぞれの役割、相関関係について問題提起をし、具体的な事例を提示しながら、授受動詞構文の教育上における文法のルールとプラグマティクスのルールについて興味深い言及をしている。 rkB7PAWJ0ubFg6VnmvmiSNlWVkDZ1fcalZNxLw1+abP3lLqsfDzLe7cE6X8rKob9

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