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序二

2006年に提出され学位を得た、楊玲氏の博士論文「日本語授受動詞の構文と意味」がこの度中国で出版の運びとなったことを心からお祝い申し上げたい。進展の著しい現代言語学の成果を十分踏まえたうえで深い考察を行っている本書が世に出されたことを誠に喜ばしく思う。

本書は、書名が示すとおり、日本語に特徴的な授受動詞構文の意味を内部構造と相関させながら解明しようとする意欲的な研究である。形式と意味の一方に偏ることなく、これら2つの側面にバランスよく目を向けた優れた研究である。「モノ的授受」から「非モノ的授受」への連続性(言い換えれば、本動詞構文から補助動詞構文への連続性)を的確に捉え、また、そこに恩恵性がどのように関与するのかを明らかにした点は、高く評価される。近年大きな関心が寄せられている動詞の意味に対して行き届いた分析が施されている点も注目される。

動詞の語彙的特徴を押さえたうえで「モノ的授受」·「非モノ的授受」などの概念を導入することにより構文の意味を十全に把握しようとする楊玲氏のアプローチは、文法研究における重要課題である構文の意味研究に資するところ大である。構文の意味拡張などに着目する点で「動詞意味論」を超え、一方、動詞など構文の内部要素に分析のメスを入れている点で「構文文法」とも異なる、という氏独自の立場が示されている点は特筆に価する。近年活発な論議を呼んでいる文法化の研究との関連においても、本書は一つの有力な研究の方向性を提供している。

楊玲氏自身も指摘しているように、文法論と語用論の関係(構文の意味について言えば、構文の文法的意味と語用論的意味の関係)をさらに検討すること、及び、授受構文を対象とする日中対照研究を深化させることは、今後に残された重要な研究課題である。とりわけ、日中対照研究の進展については、母語である中国語に対して鋭い言語感覚を持つ氏に大きな期待が寄せられる。日本語と中国語の対照研究が中国と日本で同時に推進されることは、中国と日本の学界にとって誠に喜ぶべきことである。

楊玲氏に初めてお会いしたのは2004年6月に私が北京日本学研究センターに出講したときのことである。そのときのご縁がもとで2005年4月から1年間氏を神戸市外国語大学にお迎えできたことは私にとって誠に幸いなことであった。学問研究に対する氏の情熱には深い感銘を受けた。本書の元になった氏の研究をめぐって種々の意見を交換できたことも貴重な機会であった。また、30年前に書いた拙論に言及していただいたことは、私の研究の大きな励みにもなった。記して深謝する次第である。

楊玲氏は日本語研究において多くの実績を積んでおられるだけでなく、日本語教育の分野でも既に注目すべき貢献をされている。本書の刊行によってその優れた研究成果を学界に示された氏の今後のさらなるご活躍をお祈りして、拙い筆を擱く。

2008年5月25日
神戸にて
益岡隆志 h6AfVVd6y+iqNIaeDaRdLEah/STohLcdylgGhMhf25y11u1pSr1WKXfTYEUPgLO8

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