このように、日本語授受動詞構文は他の言語とは異なり、形態上「クレル·ヤル·モラウ」という3系列体系を有している。一方、この3系列の並列共存を決定付ける要因は<話し手関与性>であり、<話し手関与性>の関与のありようにより、強い人称制約が文構成上に現れている。しかし一見、3項対立の体系をなしている日本語授受動詞構文も、授受事象の本質から見て、多くの言語と同じように、「与え」か「受け」か、または「イク」か「クル」かしかない汎言語的二項対立の視点を反映している。
その結果、3系列体系の授受動詞構文に反映される<話し手関与性>についても、話し手の視点を中心に捉えられる「モノの移動」の方向性を反映していることが分かった。それを二項対立の視点、即ち「与え」か「受け」か、または「イク」か「クル」かの方向性に還元して捉えれば、<話し手指向性>と<話し手離反性>という二つの方向性と捉えられる。
授受事象が表す<移動>の原点に立ち返って授受動詞構文を捉える場合に、その<移動>は通常の主体移動でも通常の対象移動でもなく、<対象使役移動>である。この移動は原則として、人間を出発点とし、同じ人間を着点とするものであり、授受事象の本質を反映していることにより、授受動詞構文の本質的意味特徴としてみなすことができる。そしてこの<対象使役移動>を成立させるためには、<授与者>(Human-Departure)、<授与目標>(Human-Goal)、そして<対象物>(Object)の三つが必須要素とされる。
しかし、授受事象の汎言語的な<対象使役移動>を基盤として授受動詞構文を見た場合でも、日本語の授受表現には常に話し手を表現の中心とする意味特徴がある。このように、<対象使役移動>と<話し手関与性>が相関しながら、さらにその上に恩恵性が絡むと、日本語授受動詞構文の意味表出上により一層の濃い意味特徴が現されることになる。
3.1の通時的意味用法と3.2の共時的意味用法のデータ調査を通して明らかにしたように、授受本動詞構文の文構成上に重要な成分として現れる「モノ」は、通常「好ましいモノ」に傾斜しており、「恩恵性の萌芽」として本動詞構文に内包されている。このことは本動詞構文だけではなく、補助動詞構文への拡張、特に意味上の拡張に大きな影響を及ぼすことが予測される。
このように、<対象使役移動>、<話し手関与性>、<恩恵性>は相互に有機的な関連性を有し、日本語の授受動詞構文の表す意味には欠かすことのできない意味要素であると言うことができる。この三者間相互の有機的な関連が、日本語授受動詞構文の多様な意味を産出しており、日本語授受動詞構文の意味特徴を構築しているのである。
序章で述べてきたように、日本語授受動詞構文の3項対立の構文的特徴はこれまで大いに注目されてきている。これを授受動詞構文各系列間の「外的」構文関係とみなすと、対応する意味関係も構文間の使い分け、人称関係によって反映されるものとなるが、授受動詞構文の<対象使役移動>という本質的な意味特徴はこの「外的」構文関係には直接反映されることはない。
要するに、<対象使役移動>の本質的意味特徴を反映させるためには、授受動詞構文の構文間の「外的」構文関係ではなく、「内的」構文関係、即ち、本動詞構文を基盤とし、補助動詞構文、さらに補助動詞構文内部の構文関係から捉えなければならないということである。
以下第2章では、<対象使役移動>の本質的意味特徴に立脚して、授受動詞構文の構文的特徴を考察する。その主な手がかりとして、文の構成成分、特に述語動詞や補助動詞構文の前接動詞の語彙的意味特徴に着目して考察していく。
このような考察を通して、構文と意味の間には密接な相関関係の存在していることを明らかにし、授受本動詞構文と補助動詞構文との間、そして補助動詞構文間にも、それぞれ構文上·意味上のいずれにおいても相互に関連し、連続していることを明らかにしていく。